テゲバジャーロ宮崎(J3)から育成型期限付き移籍でヴェロスクロノス都農に加入した藤本奎詩選手。
攻撃的なプレースタイルの左サイドバックである藤本選手に、新天地での挑戦と成長、そしてJFL昇格への想いを語ってもらった。
サッカーへの情熱とチームへの貢献意欲が溢れる、若手選手の素顔に迫る。
苦しかったJ3を経て、新たな挑戦を
―大学卒業後、J3のテゲバジャーロ宮崎で昨年プロデビューされました。昨年一年を振り返って、いかがでしたか?
正直、本当に苦しい一年でした。
大卒で即戦力として加入しているけど、公式戦にほとんど出られなかったので、メンタル的にきつく悔しいシーズンでした。
ただ、学びがある1年ではあったのでいい経験をさせてもらったと思っています。
―どんなことがつらく、どんなことを学びましたか?
試合に出られないってことはプロサッカー選手として評価されていないってことですし、自信をどんどん失っていく。
練習でも、成長してうまくなれているという実感が湧かないですし、自分は通用しないんじゃないか、と不安になったシーズンだったんです。
でも、どのチームでも誰かしらは試合に出られない訳で。出られなくても腐らずやる、自分を出し続ける、というのをすごく学んだ一年でした。
当時のチームメイトだった北村知也選手(現JFL鈴鹿所属)は、試合に出られなくても練習強度を高くするし、終わった後のケアにも手を抜かないんです。
「いつ出番が来るか分からないけど、試合に出られないからコンディションが悪い、では通用しない」という、プロのシビアな世界を教えていただきました。
大卒で加入したテゲバジャーロ宮崎在籍時の藤本選手
―そんな中で、育成型期限付き移籍でヴェロスクロノス都農に加入しました。同じ宮崎県内のチームであるヴェロスのことはどう思っていましたか?
去年の天皇杯出場をかけた宮日旗MRT杯決勝戦で対戦しましたし、練習試合も年に3、4回していました。
去年の決勝戦ではテゲバジャーロ宮崎(以下、テゲバ)が勝ちましたが、練習試合ではヴェロスが勝っていることが多かった印象です。
選手の質が高いというか、地域リーグにとどまらない、JFLを本気で目指しているというのがすごく感じられるチームでした。
―ヴェロスへの移籍を決断した経緯を教えてください。
やっぱり試合に出たい、というのがあって移籍を決断しました。
去年11月にテゲバと今後についての面談をしたときに、試合勘を取り戻すためにも移籍を検討してほしいと言われて。
その後、11月末にはヴェロスからオファーをいただいたので、対応が早く、他の選択肢をもらう前にヴェロスに決めました。
公式試合に出ていない状況、数字的には判断材料がない中で、小寺監督との面談の時に理由を聞いたら、「テゲバと練習試合をしたときのプレーを評価した、印象に残っていた」と教えていただいて。
監督の目で見て評価されたのは、選手としてありがたいですし、熱意もすごく感じたんです。
―移籍は周りに相談しましたか?
めっちゃくちゃ相談しました。親にも、周りの選手にも。
相談した中の一人、先輩の児玉駿斗選手(現徳島ヴォルティス所属)から、「そこ行ってよかったと思える人生に自分でしないといけないから。結局自分次第」と言われたのが心に残っています。
プロサッカー選手、J リーガーになるのが小さい頃からの夢だったので、カテゴリーを落とすことに抵抗も迷いもありましたが、ヴェロスのサッカーは自分に合っているとも思っていました。
―ヴェロスの選手はJリーグやJFLを経験されている方も非常に多いので、藤本選手自身にもいろんなフィードバックがあるのではないでしょうか?
それもヴェロスに移籍する決め手でした。
他の地域リーグのチームとは違って、たぶん半分以上がJリーグ、JFL経験者。
そういった面でプレーも選手の質も高いのはあって。チームメイト、人間関係にすごく恵まれていると思います。
左サイドからのチャンスメイクに注目
得意なドリブルで相手ディフェンスを突破する藤本選手
―ヴェロスのサッカーのどんな部分がご自分に合っていると思いましたか?
強さや激しさも大事にしていますが、巧さやポゼッション、ボールをより大切にしているところですね。
実際にチームに入ってみても、マッチしているという実感はあります。
―ヴェロスでの具体的な役割、ポジションを教えてください。
ポジションは左サイドバックです。ヴェロスの左サイドバックは、いろんなところに顔を出すという戦術を取っていて。
ボールを持って相手を抜き去ってクロスを上げたり、時にはトップ下のポジションに入ったりもする、自分で状況を打開しないといけないポジション。
自分にとってはすごく楽しいけど、ただ、考えることがすごく多く、難しい。難しいですけど、やっぱり楽しいっていま思えています。
―左サイドバックだけでなく、高校時代には、右サイドバックも経験されていますね。藤本選手のような左利きで右サイドバックって珍しいですよね?
あんまりいないですね。
左利きで右サイドバックだと相手やゴールに近い位置にボールを置くので、ボールを失うリスクがあるんです。
一方で、相手守備陣を切り裂くドライブドリブルや、カットインからのシュートがしやすい。
高校は中央学院高校という、千葉のドリブル軍団と言われているところで(笑)。
守備より攻撃を評価されたサイドバックで、ほぼ攻撃参加。
得意なドリブルをとことん伸ばせる環境でした。
これまでもサイドハーフとか、フォワードとか、トップ下とか、前のポジションをずっとやっていました。
ドリブルの技術に磨きをかけた中央学院高校時代の藤本選手
経験を積み重ねて知るサッカーの楽しさ
―プロになりたいと決意したのはいつごろからでしょうか?
高校2年生で公式戦に出られるトップチームに入って徐々に意識し始めて。
高校3年生で県内の大会で優勝したりして結果が出始めたころには、プロサッカー選手は確実に叶えたい夢になりました。
左サイドバックになったのは、東海学園大学に行ってからです。
大学自体は全国大会に出るレベルのチームだったので、一番戦える、プロでやっていけるポジションということで、左サイドバックが固定になりました。
―現チームメイトの山内彰選手(背番号7)とは高校、大学と同じなんですよね。
山内彰くんは自分が高校1年の時の高3で、大学も一緒の先輩後輩関係です。時間が経って、いまも一緒にいるのは面白いなって思います。
山内選手は当時からやんちゃな感じが前面に出ていたので…自分は「すいません!」って感じでしたが、関係性はすごく近くなりました。(笑)
高校・大学の先輩である山内選手(写真左)と同じピッチに立つ場面も
―山内選手も中盤でのドリブルが多いので、同じ血が入っているんでしょうね。これまでのキャリアで印象的だった試合はありますか?
2つあって。1つは中学生の時、攻撃時の数的有利な状況で、自分がパスを出して結果ゴールは決まったんですが、「パス出した時点でドリブラーとしては勝たんな」と監督に怒られて。
「得意なこと、好きなことをもっと極めたい。こだわっているならこだわり抜け」という気持ちは自分の中で強くなりました。
もう1つは、大学4年時の総理大臣杯出場を決める大会で、引き分けも許されない三連戦をすべて勝って、全国大会の切符を取った試合です。
実は、大学4年生のときに怪我をして思ったようなプレーができていなかったんです。
徐々にコンディションを上げることができて、タフなメンタリティーも必要だったその三戦は、いいプレーができたと思っています。
―これまでも全国大会に出られたことは多いんですか?
ほとんどないんです。自分は本当に無名の選手で、地道にコツコツやった結果が大学3年、4 年でようやくついてきたタイプなので。
サッカー選手になる人って小学校から有名で、中高もエリート、という人が多いんですけど、だからといって必ずプロになれるわけじゃない。
経験を地道に積み上げて、努力を重ねることもプロサッカー選手になれるかどうかに大切なことだと思っています。
東海大学時代、これまで積み上げてきた努力が身を結び始める
サッカーを主軸にして、私生活も充実
―プライベートではどんな過ごし方をされているんですが?
契約上、ありがたいことにサッカーでご飯を食べさせてもらっているので、サッカーを主軸にした生活を意識しています。
筋トレに行ったり、サッカーに役立ちそうなら普段読まない自己啓発本を読んだり。
アニメはめちゃくちゃ好きです!最近は『スラムダンク』を観ました。
―海外サッカーなどは観られないんですか?
海外サッカーは気まぐれでしか観ないですね。現地観戦は好きだけど、テレビでサッカーを観るのは得意じゃないんです。
正直一番見ていたのは小学校のときなので…憧れの選手は中田英寿さんや中村俊輔さんなど自分が小さい頃に活躍していた選手です(笑)。
プロになってからは以前よりJリーグを結構観ますし、試合前に左利きのドリブラーや左サイドバックの選手の動画を観るけど、メッシ、サネ、マフレズとかの海外の選手のプレー集は次元が違い過ぎて、全然参考にならない(笑)。
―リフレッシュ方法は?
おいしいものを食べに行ったり、チームメイトと映画鑑賞したりしますし、ゴルフも始めました!
「宮崎でゴルフ始めないんだったら、どこで始めんねん!」って言われて(笑)、松本幹太選手(背番号 27)とつい最近も行ってきました。
―宮崎や都農のおすすめはありますか?
宮崎はおいしいご飯が多いだけじゃなく、人も温かいんですよね。
自分は兵庫出身なので、よく関西のノリでお店の人に話しかけるんですけど、たくさん返してくれます。
都農は本当に自然いっぱいな田舎やなーって思いますけど、それが魅力です。
練習の度に道の駅つので野菜を買って帰るんですけど質が全然違う。
夏になったら川に入ったりして、いろんな自然と触れ合うのを楽しみたいですね。
サウナに通うことも藤本選手のリフレッシュ方法の一つ
「J」に昇格するための決意
―改めて、今シーズンのチーム目標、個人目標を教えてください。
チームが掲げている地域リーグ3連覇、そしてJFL昇格は絶対に成し遂げたい。
地域リーグからJFLに上がるのはすごく難しいって聞いているので、そこを最大限に味わいたいです。
個人目標は自分の存在価値をしっかり示すこと。
去年J3で結果を残せていませんし、テゲバジャーロ宮崎に関わる方々から「ヴェロスで変わったよね」と評価されるぐらい成長したいです。
そのためにもアシストだったりゴールだったり、数字や結果にもっとこだわっていきたいです。
―目標を達成するために、いま課題と思っていることは何ですか?
チームとしては、できる選手が揃っているので、もっとクオリティを出さないといけない。
正直、ヴェロスは地域リーグでは頭一つ出ている存在。
完璧に、とは言えないですけど、簡単なミスや構築できていないところを改善して、ヴェロスが目指すレベルまで習熟度を上げていかないといけないと思っています。
個人としては、守備の部分を強化することが大事だと思っています。
攻撃だけが得意で守備ができない、ではサッカーはできないので。
サイドの対応や、競り合いや球際で負けない強度は克服していきたいです。
―最後にサポーターの皆さんにメッセージをお願いします。
いつも応援ありがとうございます。
ヴェロスに来て、地域の方々と密着してサッカーができているからこそ、応援してくれるありがたみをより感じることができていますし、自分のプレーの助けにもなっています。
そういう方々と一緒にJFLに上がれるのは、みんなの幸福度を上げることにもつながると思います。
一緒に幸せを分かち合いたいので、JFLへ絶対に昇格しましょう!
<取材後、5月11日に行われた天皇杯宮崎予選の決勝戦を終えて…>
―今年も決勝戦でテゲバジャーロ宮崎と対戦し、今回はヴェロスが勝ちました。「期限付き移籍」という制度上、出場はできませんでしたが、どんな想いで試合を観ていましたか?
同じ県内チームに移籍を決断したときから、ここが唯一公式戦で戦える場所なので、テゲバとの決勝まで試合に出て勝つということにだいぶこだわっていました。
また、移籍を決めた時、ここでタイトルを獲ることは1つの目標だったのですごく嬉しいです。
自分にとってテゲバジャーロ宮崎は大卒でプロの世界に導いてくれた恩があるクラブです。
特別な想いがあるからこそ、正直、自分が試合に出て、勝って、自分の価値や成長した姿を示したかったのが本音です。
でもヴェロスのチームメイト、ヴェロスに関わる方々の応援によって、ヴェロスというチームの価値を結果として出してくれた。
本当に感謝しかないですし、本当にヴェロスが好きです。
だからこそ、このチームで目標を達成して良いシーズンにしたいですね。
藤本 奎詩 選手の詳細プロフィールはこちら
- 2025.05.16
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